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    今井研究会の卒業プロジェクトでは一人ひとつの研究を行い、
    先生とテーマを相談したうえで、大学生や幼稚園生を対象に調査を行いデータを分析して卒業論文にまとめます。
    卒業プロジェクトのテーマは面談でじっくりと先生と相談して決めることができますので、
    研究したいテーマがありましたら相談してみてください。

    2020年度

    従来の信念バイアス予測の問題点~自粛・オンライン授業への賛否と妥当性評価の関連性について / 近藤大貴

    新型コロナウィルスが流行して以降、どのように対応するべきか様々な意見が飛び交い、国家から個人レベルに至るまでその妥当性を評価することは重要になっている。しかし認知心理学の研究は、人は論理的妥当性にではなく意見の結論と自分の考えの近さによって妥当性を評価してしまう非合理な傾向があることを明らかにしている。今回はその傾向を踏まえ、自粛や授業のオンライン化の是非について実際に人々が日常で評価を行わなければならないような文章を作成し、課題に用いることで人の妥当性評価のメカニズムを探った。分析の結果、人が妥当性評価を行う際には、先行研究が示す通り意見の結論と評価者の考えの近さが最終視されること、文章内で引き合いに出される根拠一つ一つのもっともらしさが重要であること、根拠同士の論理的な関係性は無視されること、ただし分析的思考を経た考えを持っている場合はその限りではないことが明らかになった。

    キーワード:認知バイアス、信念バイアス、合理性、妥当性評価、新型コロナウィルス

    ポスターのPDFのダウンロードは >>こちら / 5分動画による解説は>>こちら         

    2015年度

    言語環境による心の理論の発達の違い / 井上ちはる

    相手の意図を推論する心の機能を心理学では「心の理論」という。一般的に心の理論は4歳以降から発達すると言われてきた。しかし、近年の研究では、心の理論の発達は、子供が触れる言語環境によって差が見られることが明らかになってきた。特に日本では、言葉で意図を伝えるのではなく、イントネーションなどを使い意図を伝えることが多い。そのため、日本人は母語である日本語であれば4歳以前からイントネーションをヒントに相手の意図を推論できることが先行研究で明らかになっている(Matsui,2013)。このことから、本研究では、日本人の3、4歳、大人を対象に母語以外の言語であるフランス語のように、言葉の意味が全く分からなくてもイントネーションのみをヒントに相手の意図を推論できるかを調査した(実験1、2)。 また、フランス人を対象に母語であるフランス語を使用し、同様の調査を行った(実験3)。その結果、日本人の大人と3歳児はフランス語のように言葉の意味が分からなくても、イントネーションのみをヒントに相手の意図を推論できるが、4歳はできないことが明らかになった。 つまり、右肩上がりに能力が発達するのではなく、一度下り、もう一度上がる U 字型発達曲線が見られた。また、日本人の3歳は本課題に正解できたのに対し、同じ年齢のフランス人は正解できなかった。このように、心の理論の発達には言語環境の差があり、U字型発達曲線の可能性を示唆する結果となった。

    キーワード:発達, 言語, 推論, 心の理論, イントネーション

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    教授法による学習効果の適性と命題の理解 / 保坂航

    私たちにとって、学習とはどのようなものだろうか。学校で授業を受けること、家で宿 題をすること、それとも自分が興味を持っていることを調べることだろうか。最近では、多くの学習機会が設けられている。例えば、NPO 団体による子ども向けワークショップの 開催や企業の中学生以上の学生に向けたプログラミング講座などがあげられる。このよう に社会でも学習機会は多様化し、学習そのものの捉え方も様々になっているのである。で は、これまで私たちの経験してきた学習は真に知識を定着することができ、その知識を利 用し効率的に学習を促すものだっただろうか。知識や考え方を持っていても、利用するこ とが出来ていない事例として大学生でも正答率が 5%程度とされる Wason の 4 枚カード問 題(Wason,1966)がある。本研究では、Wason の 4 枚カード問題を題材に用い、2 種類の 教授法により「対偶」について学習させることで学習効果を確認し、教授法と学習する内 容の適性、さらには個人の持つ学習に対する考え方の特性や思考能力、思考傾向に関する 自己評価をもとに教授法との適性などを見た上で、人はどのように学習することで最大の 学習効果を得られるようになるか考える。

    キーワード:教授法, Wasonの4枚カード問題, バイアス, 推論

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    幼児の色語獲得の過程 / 氏原由絵

    言葉の意味は、他の言葉との関係で成り立つ。例えば、色語に関して言うと、ピンクという言葉を使うためには赤とピンクの境界線を認識する必要がある。子供にとって色語獲得は他の言葉(名詞・動詞など)に比べて難しいとこれまでの先行研究で言われているが、一括調査で得たデータがほとんどで子供が色語を獲得できていない 状態からどのようにして獲得していくのかという過程を検証されてこなかった。本実験では24か月から44か月の子供を対象に、毎月1度同一の子供たちに理解課題と産出課題を同じ日に行った。実験には基本色名11色から無彩色を抜いた8色を使用し、理解課題は絵本形式で8色のチップを選んで取ってもらうという方法を用いて子供が課題に 乗りやすいよう工夫した。産出課題は車や傘などのオブジェクトをくりぬいたシートを使いランダムに8色を聞き、答えてもらった。その結果、理解・産出共に子供が正答率4/8〜5/8 から6/8〜7/8になる間で色と色語のマッピングをすることができると示唆された。

    キーワード:語彙発達, 色語獲得, 幼児

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    2014年度

    * 学内CB発表会 3位受賞 *
    確率推論におけるバイアスの影響と確率の理解と行動 / 江部正周

    確率は理解することも、帰納的に推論することも難しい。本研究では直感と理論が矛盾している問題として有名なモンティホール問題を題材として、Granberg and Brown(1995) に基づき問題を規範解を知らない状態で50試行、その後問題の規範解を教授し、同じように50試行を20名の参加者に解いてもらい、同時に発話プロトコルでのバイアスの分析も行った。参加者を規範的な行動(ドアを変える)をする群とそうでない群に分けて分析を行った結果、はじめの50試行で規範的行動を示した群と、規範解を教授されて規範的な行動を示した群が逆転する現象がみられた。発話プロトコルによるバイアスの分析により、はじめに規範解と異なった行動をしてもバイアスが弱い場合は方略を修正できるが、はじめに規範的な行動をしても、バイアスが強い場合はその後の行動を修正できないことが示された。この研究は確率の理解とその行動には大きな溝があることを行動と認知の面から示唆するものである。

    キーワード:確率, 推論, バイアス, ベイズ, モンティホール問題

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    * 学内CB発表会 3位受賞 *
    幼児のイントネーションをもとにした話し手の確信度の理解 / 石井美希

    子どもにとって、情報の信頼性や信頼できる人物を見極め、真実を知ることや正しい推論を行うことは必要不可欠である。そのため、子どもは言語的な手がかりだけでなく、表情、ジェスチャー、イントネーションの所謂非言語情報など様々な手がかりをもとに、推論を行ったり、ことばを学習したり、相手の意図をくみとったりすることができる。欧米の子どもに関しては、5歳でもイントネーションから話し手の確信度の程度を理解することは難しいと報告されている。一方、日本の子どもの場合は、3歳児ではイントネーションから話し手の確信度の程度を把握できると報告されている。しかし、イントネーションは音の中でもわかりやすく、赤ちゃんが最初に学習するのは母語のリズムやイントネーションの特徴とされている(今井,2013)。さらに日本の文化では話者の態度や感情をはっきりと言うことをさけ、声の調子などで婉曲的に伝えることが多い。そこで本研究では、イントネーションに着目し、イントネーションを話者の確信度に結びつけ、さらにことばの意味の推論に使うことが3歳になる前に既にできるのではないかという仮説に基づき調査した(実験1)。さらに、子どもにとって母語ではない知らない言語のイントネーションでも、話し手の確信度に結びつけ、未知語の推論に使うことができるかどうかについて、さらに調査を行った(実験2・3)。日本人の2歳後半児はイントネーションから話し手の確信度を理解し、未知語の推論にイントネーションを使用することができることが明らかとなった。さらに、5歳になれば、文の意味がまったくわからなくてもイントネーションの情報のみから、話し手の確実度を正しく結びつけ、未知語の推論に使用できるという結果が得られた。

    キーワード:心の理論, イントネーション, 確信度, ことばの推論, 幼児

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    いかにデジタルデバイスは理想的な 学習ツールとなり得るか / 小林恵理子

    急速にデジタル化する現代において、相次いで見られる教育現場へのデジタルデバイスの導入。デジタルデバイスの世界的な規模と問題、教育現場の動き、諸先行研究の結果を受け、その実態を探るべく本研究では新たな視点でデジタルデバイスの学習効果を探った。映像実験では部分的に先行研究に沿った結果が表れ、その他の部分では仮説通り日本語の特性による先行研究との違いを思わす、授業ノートとテスト結果の関係が見られた。簡体字実験ではアナログとデジタルの漢字練習を検証し、被験者の練習行動に着目、質的な分析を進めることで私たちの記憶システムにデジタル社会が新たな可能性を示唆する考察が導かれた。

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    幼児の「同じ」という認識の発達 / 牟田傑

    私たちは、言葉によってカテゴリーを知覚し、カテゴリーを通じて世界を見ている。本研究は、言語とカテゴリーの関係の根本にある「同じ」という認識の発達に注目した。実験では、3歳から5歳の幼児を対象に「同じ」という言葉の意味がどのような変化を遂げるのかを明らかにした。さらに、「同じ」という言葉の認識が、名前を覚えるときに生じるバイアス(思い込み)の影響を受けている可能性も分析した。結果から、子どもは「全体の形」を同じとして認識すると同時に、「色」などの属性や「一部の形状」も「同じ」の意味として考えていることが分かった。その際、名前を覚えるときに起こる事物全体バイアスや、カテゴリーの範囲を形に注目することで決定する形バイアスの影響があることも明らかになった。

    キーワード:カテゴリー, 同じ, 幼児

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    オノマトペが手触りの類似性評価に与える影響 / 辻健太

    オノマトペは豊かな情報量と音象徴性を持つことが知られており、幼児の学習を助ける。また知覚はそれ自体が独立して情報を処理するわけではなく、触覚も他の知覚から影響を受ける。また触覚がオノマトペから影響を受けることが報告されている。本研究ではオノマトペが触覚の記憶を変えるのかを調べることを目的として、最初に提示される刺激を触る際に同時に聞くオノマトペによって、その刺激と後続の刺激と感触がどれくらい似ていたかの度合いが変化するかを調べた。その結果、後続の刺激に合うオノマトペを聞いたときに似ていると感じる度合いが上がり、後続の刺激に合わないオノマトペを聞いたときは似ていると感じる度合いが下がることがわかった。これらの結果は、オノマトペが触覚の記憶を変えたことを示唆し、触覚の記憶があいまいである新たな証拠となった。

    キーワード:オノマトペ, 触覚, 記憶

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    音象徴性の普遍性と言語特有性 / 安福佳奈子

    言語と指示対象の意味との関係は、文化や社会の特徴によって恣意的に結びつけられている関係であるという考えが主流であった。これに対して、言語のその音韻形式と指示対象の意味にはなんらかの関係性があるという考えのもと始まった研究が音象徴性の研究である。本研究では、音象徴性の研究で代表的なBouba-Kiki / Maluma-Takete現象の考察を参考にし、先行研究であるSajiら(2014)の研究をもとに、Nasal(鼻音)を普遍的な音象徴性、Affricate(拗音)とGlottal(声門音)を言語特有的な音象徴性として仮説をたて、音象徴性の普遍性と言語特有性に加えて、どの構成音素がどのような動きに結びつきやすいかを子音と母音の単位で明らかにすることを目的として、日本語話者と英語話者、日本語話者の3歳児を対象に、理解実験を行った。結果、Nasal(鼻音)、Affricate(拗音)、Glottal(声門音)の中で、Affricate(拗音)が全被験者において普遍的にLightな(軽い)動きに結びつける傾向が強く、Affricate(拗音)という子音がLightな(軽い)動きに結びつける際に大きく影響を与えているということが明らかになった。また、英語話者と日本語話者の大人では、日本語話者の方が音象徴性へのアクセスが可能背あり、音声言語と対象と結びつける際に、より音象徴性手掛かりにしてその結びつけを行っていることがわかった。

    キーワード:音象徴性, 普遍性, 言語特有性, 言語習得, 言語の恣意性

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