慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス
授業概要(シラバス)
2006年度春学期
2006年度春学期 金曜日2時限
科目コード: 37010 / 2単位
カテゴリ: 24.専門-環境情報系科目(学部)
開講場所:SFC
授業形態:講義
1. 主題と目標/授業の手法など
「学習」というと一般的には「学校で習う勉強」を考えがちであるが、人間の学習とはずっと多種多様で幅広いものである。子どものことばや概念の学習、読み書きの学習のような日常生活を通して行われる学習、主に学校教育を通じて学ばれる物理学、数学などの学術の学習から、チェスや碁、音楽などの分野での学習、までを射程とし、それぞれのタイプの学習で知識、技能が習熟していく認知メカニズムを分析する。この分析を通じて古い学習観にしばられない、発見的、創造的学習とは何か、それを支える認知機能とは何かを考える。また、創造的学習を促す学習環境の構築について考える。
2. 教材・参考文献
教科書
今井むつみ・野島久雄 「人が学ぶということ:認知学習論の視点から」北樹出版
参考文献
市川力 「子どもに英語を教えるな」中公新書ラクレ
今井むつみ著 「ことばの学習のパラドックス」 共立出版
今井むつみ(編)「心の生得性」共立出版
Elman他著 乾・今井・山下訳 「認知発達と生得性」共立出版
多鹿秀継編 「認知と思考--思考心理学の最前線」サイエンス者
稲垣佳代子、波多野誼余夫著 「人はいかに学ぶか:日常認知の世界」中公新書
波多野誼余夫編 「認知心理学5:学習と発達」東大出版会
ジーン・レイヴ著 無藤・山下・中野・中村訳 「日常生活の認知行動」新曜社
その他適宜紹介する
3. 授業計画
第1回 授業ガイダンス
授業ガイダンスと「認知学習論」の考え方の紹介。
第2回 学習とは何か
古い学習観、行動主義の学習観を紹介し、最近の認知科学の視点からの学習観と対比する。「学習とは何か」をあらためて考える。第3回 概念の学習と発達
子どもは日常生活の中からどのようにしてことばと概念を学習するのだろうか?この回は乳児が自分をとりまく世界についてどのような知識をもっているか、どのように日常世界に起こる物理法則や因果関係などを学習していくのかを議論し、人間の日常的、直観的認知学習の根本にあるものは何かを考える。第4回 概念の学習とことばの学習
子どもはどのようにことばを学習し、また「動物」「植物」「生き物」「物質」などの様々なカテゴリーを学んでいくのだろうか?
第5回 外国語の学習I
バイリンガルとは認知的にどのように定義されるのか、認知的にどのように意味があるのか。また、子どもによる母国語の学習メカニズムと大人による第2言語の学習のメカニズムの違いを考える。
第6回 外国語の学習II
「英語を子どもを教えるな」(中公新書ラクレ)の著者の市川力氏に、英語の早期教育の是非を議論してもらいます。
第7回 概念の学習と概念変化I
人間にとって自然に、そして直観的に容易に学習できる領域と直観が障害になり直観的理解を克服し概念変化を経なければ学習が達成できない領域とがある。どのような領域で「概念変化」が必要なのか、「概念変化」がどのようにして起こるのかを議論し、「概念変化」という視点から子どもの算数や理科におけるつまずきを考察する。第8回 概念の学習と概念変化II
概念変化を促進させるにはどうしたらよいかを考察する第9回 熟達化1:問題解決の分野での習熟
問題解決の分野での初心者とエキスパートの違いを考え、一般の人が持つ物理や生物についての理解や思考プロセスと科学者のそれはどのように違うのかを議論する。また、科学者による「科学的発見」はどのようなプロセスから生まれるのかを考える。第10回 熟達化2:伝統芸能の技の習熟のプロセス
スポーツやさまざまな身体的運動を伴うスキルの分野での熟達化の条件やそのプロセスを考える。事例として能役者の金春安明氏に能を初めとした伝統芸能の熟達過程についてお話してもらう予定。
第11回 よりよい学び、創生的学びとは
認知学習論の観点からここまで授業で話してきたテーマを総括し、「よりよい学び、創生的学び」について考察し、学校教育の課題を考える。また科学の教材に画像やアニメーションなどのマルチメディアを用いることの効果などの実証研究を紹介し、創造的発見的学習のためにITやマルチメディアをどのように活用するべきかを議論する。
第12回 人間の学習と機械の学習
コンピュータによる学習(機械学習)の現状を概括し、機械学習との比較によって人間の学習の性質を考える。第13回 期末試験
期末試験
4. 提出課題・試験・成績評価の方法など
期末テスト
期末レポート
小レポート 1−2回程度(A4 1-2ページ)
成績はテストの成績、レポート、出席を総合して評価する。配分比率はレポート45%、テスト40%、小レポート10%、出席5%くらい。(ただしあくまでも目安です)
5. 履修上の注意・その他
認知科学、学習、教育に興味があり、21世紀に生きる人間の学習のあり方について真剣に考えたい人に履修して欲しいと思います。なお、授業の進み具合で若干の予定変更があるかもしれません。ゲストによる講義を1,2回予定しており、ゲストのご都合により講義内容も順番が前後する場合があります。なお、認知科学の手法を学ぶため、今井研究室で行う認知心理実験の実験参加をしてもらいます。
6. 前提となる知識(科目名等)
特に前提とはしないが認知と心理他認知科学関係の汎用科目を履修していることが望ましい
7. 履修者数制限(予定人数および制限方法)
履修人数を制限しない。
8. 授業URL
https://cogpsy.sfc.keio.ac.jp/cog-learn/
9. 学生が準備するソフト・機材
なし
10. 授業に関する連絡先
imai@sfc.keio.ac.jp
2006-03-12 21:29:38